森の香り* 魂のヒーリングセラピー

愛知県小牧市で、ハート(感情・心・魂・内なる神性)の声を聴く、直観カウンセリング、本来の自然なご自身をサポートするヒーリングを提供しております

さよなら急須

その日、何かが違うと感じた。


いつものように朝食後の緑茶をいただこうと
“急須”に触れた時の感触が、

「あれ、持ち手はこんなだったっけ?」と

確かにいつもと違う感触が伝わってきた。


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だからこそ、その時始めて、
“急須”をじっくりと観察することになったのだった。


いつから使い始めたのだろう、思い出すこともできないほど
それはキッチンの風景の中に溶け込み、
溶け込み過ぎて視界に入らないほど、
当たり前のように存在していた急須。


黒で描かれた猫の絵柄の急須って珍しいな、
持ち手は、使う人のことを考えて長めに作られたのかもしれない。

そんなに高価なものではなさそうだけれど、
使い勝手はいいな。

そんなことを思った。



もう何年も使っているのに、
これほどに“急須”にじっくり意識を向けたことは始めてだった。



そして、その夜、
父が、お茶を入れようと、急須に触れた時、
手を滑らせたかで、
その急須は落ちてあっけなく割れてしまった。


その時、朝に起こった出来事を思い出した。


これまで特に意識を向けたことはなかったけれど、
いつも働いてくれているね、そんな気持ちで、
急須の絵柄や、使い勝手の良さを、
改めて思ったことを思い出した。

そうか、あれは、急須に対して、
これまでの労いと
お別れの機会が与えられたのだったかもしれない。

いや、急須が、自らの運命を察し、
私にそのことを知らせようとして、
あるいは、自分の使命はここら辺が潮時だと
機会をうかがって自ら身を引こうとしたのかもしれない。

次の出番を待ち構えてスタンバイしていた急須は、
新品であるのに、すでに年季が入っているかのような、
少し古びてさえ見えるので、
使い始めなくてはいけない時期だったことは理解できる。

いずれにしても、
その日、私と急須の間で、
何かが交わされた。

つまり、それは、
“急須”にも、
一つのもののいのちが宿っていたことの証だろう。



私は、今も憶えている。

持ち手の、あの思いのほか長かったために持ちやすかった感触と、
黒で描かれた猫の絵柄と。

急須は、割れてしまい、
もう二度と使うことはできず、
この世界から失われてしまったけれど、

私の心の中には、確かに記憶されている。

私にとっては、見返りを求めず働いてくれただけの有難い存在だった。


さようなら急須。

いままでありがとう。




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[ 2023/03/24 12:03 ] 日々のこと | TB(-) | CM(-)